私がこの本を読もうと思った理由
私がこの本を読もうと思った理由は、熟年離婚に関する知識をつけたかったからだ。といっても私が熟年離婚したいとか、熟年離婚されそうといった気配は今のところ無い。だが、人生なにが起こるかわからない。些細なことで、お互い意地を張り離婚に至るかもしれない。そういった時のために、この本で紹介されている実例と対策等について知っておこうと思ったのである。
ルポ 熟年離婚(朝日新聞取材班、2025年8月、朝日新書)
この本が役に立つ人
実際に熟年離婚を望んでいる、すでに別居しておりいずれ熟年離婚になるだろう、という人には実例の経緯と離婚に対する法的知識は役に立つと思う。
公平ではない内容
本書を読んだ感想としては、公平とは言えない内容であった。基本的に「男が悪い」というスタンスで、そういった事例ばかりが紹介されている。また、女性側の一方的な意見が述べられており、男性側に弁論の余地は与えられていない。いわゆる、欠席裁判状態である。本当に記載されている内容が正しいのか分からない。
発言者が大げさに誇張している、自分に都合が悪いことは発言していない、よくよく聞くとお互い悪い点があった、なんてこともあるかもしれない。とにかく男としてはイラつく内容が多い。
婚姻にまつわる基礎知識
個別のケースを紹介しても意味が無いので、婚姻や離婚に関して役に立ちそうな知識を紹介していく。実際に離婚を視野に入れている人は、参考にしてもらいたい。個別事例を知りたい方は、本書を読んでもらいたい。
4組に1組が熟年離婚
まず、「熟年離婚」の定義であるが、「20年以上婚姻関係にあった夫婦が離婚すること」を熟年離婚というらしい。なので、50歳の再婚夫婦が再婚後2年で離婚するのは正確には熟年離婚とは言わない。熟年離婚の割合は年々増加傾向にあり、近年では離婚カップルの23%を占めるまでになっている。離婚の4組に1組が熟年離婚という勢いだ。
婚姻費用 支え合う義務
婚姻費用というものがあるらしい。私はこの本を読んで初めて知った。婚姻費用とは、夫婦間に成立する義務で、「夫婦はお互い助け合って生きていきましょう」という概念である。婚姻関係が継続している限り、別居していようが収入が多い方が少ない方に生活費を渡さなければならない制度だ。
「あいつ(妻)が勝手に家を出て行った。」となっても、離婚するまで夫は生活費を渡さなければならない。厳密に言うと、収入が多い方が少ない方を支えるので、妻の方が収入が多ければ、妻が夫を支えなければならない。
相手憎くしでも、この義務は発生するので離婚を考えている人は、注意しておこう。当然だが、離婚が成立するとこの費用を支払う義務は無くなる。まぁ、別途養育費等の義務が発生するだろうが・・・
遺産は財産分与の対象外
離婚すると、夫婦で蓄えた財産は均等に分ける必要がある。いわゆる財産分与というやつだ。では、親から相続した財産はどうなるのか?例えば、逆玉で妻の相続財産をアテにしている場合などである。
残念ながら、お互いの親から相続した財産は財産分与の「対象外」となるので皮算用しないように。逆に、あたなたが親から相続した財産も、離婚時には1円たりとも妻に渡す必要が無いので安心しよう。
妻が親から1億円を相続した。いちゃもんつけて離婚。財産分与で5千万よこせ!
⇒無理なのであきらめよう。例え妻が明らかな不倫をしていても、5千万は貰えない。なにをどうごねようがあなたが負ける。
離婚は7~8割妻からの申し出
離婚となるからには、どちらかから離婚を申し出る必要がある。本書では、7~8割が女性からとある。タイミングとしては、夫の定年時がトリガーとなる。また、主な離婚原因は夫のモラハラ。この離婚原因については、後述するが「正当な理由なく離婚は出来ない」ので、妻側がもっとも難癖をつけやすいのがモラハラなのだと思う。
不倫の慰謝料と調査費
離婚の定番といえば、「不倫」である。時々、芸能人でも世間を騒がせている。そして、不倫といえば慰謝料。その相場は300万である。意外と安い。しかも、この300万は、配偶者と不倫相手それぞれから150万円ずつで300万円である。
対して、不倫現場を抑えるための探偵の調査費用は、1週間で50~100万円とある。すぐに証拠をつかめればよいが、調査期間が長くなるとせっかくの慰謝料も探偵への依頼料で消えてしまうということである。浮気調査は効率よく行わなければならない。
離婚が認められる4条件
配偶者と強制的に離婚するには、下記の4条件のいずれかを満たす必要がある。あなたが、夫(妻)と離婚したい場合は、いずれかを成立(立証)させなければならない。もちろん、相手が素直に同意すれば緑の紙にお互いが署名捺印して、明日にでも離婚は成立する。しかし、こういう条件があるということは相手が同意しないケースが多いということである。
【離婚が認められる4条件】
①配偶者に不定な行為があった時(浮気など)
②配偶者から悪意で遺棄されたとき(生活費をもらえないなど)
③配偶者の生死が3年以上不明な時
④上記以外で婚姻を継続しがたい重大な事由がある時(DV、モラハラ、別居など)
正当な理由なく離婚するには・・・
さて、あなたが長年連れ添った夫(妻)と離婚したいとする。しかし、相手は容易に離婚に同意しない状況である。どうするか考えよう。現状夫から、あきらかな暴力や暴言などは受けていない。
・③については、目の前に夫がいるので成立しない。
・夫は真面目で浮気の事実が無いことは、自分もよく知っている。よって、①は成立しない。
・夫の給料は妻である自分が管理している。よって、②も成立しない。
離婚理由にモラハラが多い理由
となると、離婚したい側が“自力”で離婚を成立させるためには、④狙いしかないのである。その結果、「婚姻を継続しがたい重大な事由」が、モラハラだのフキハラ、もしくは別居ということになって来る。
離婚原因にモラハラが多いのもこういう理由である。自分が④の被害者であることをデッチあげれば、力技で離婚できるのである。もっとも、実際は相手も本気で反論して来るだろうから、明らかな捏造ではすぐに負けてしまう。
別居から離婚には3~5年必要
夫婦関係が冷め切っており既に別居もしている。不倫相手の男性から「ウチはすでに別居もしているので離婚間近だ。もう少し待ってくれれば君と再婚できる」なんてドラマにありそうなセリフだが、残念ながら現実はそんなに甘いものではない。
別居してから離婚が認められるには、最低でも3~5年の期間が必要である。1年やそこらでは到底無理ということである。あなたが上司と不倫中で相手が別居しているなら、別居期間を確認しておこう。
熟年夫婦にしても、「別居の事実さえ作ってしまえば、すぐにでも離婚できるだろう」というのは、大間違いである。また、別居中も前述の「婚姻費用」の義務は発生するので、別居中の妻への生活費も別途必要となって来る。そのような状況を3~5年継続させなければならない。金銭的負担もバカにならないだろう。
となると、あからさまな浮気をして相手からの離婚申し出狙いで、慰謝料300万ですぐに離婚する方が金銭的、時間的コスパがいいのか・・・なんて、ズルい考えも出て来る。ちなみに、原因者側(悪い方=浮気をした方)からの離婚の申し出は認められないので、相手から離婚を申し出てもらう必要がある。ここは抑えておくべき重要ポイントだ。
「死後離婚」という制度
死後離婚という制度があることをご存じだろうか。配偶者が亡くなった後、義理の親との関係を終了させる制度である。配偶者が亡くなっても、一応相手の親とは義理の親子の関係は継続する。これを結婚前の「赤の他人」に戻すのである。手続きとしては、役所に「姻族関係終了届」というものを提出すればよい。配偶者は既に鬼籍なので、あなた一人の自由意思で行える。
どういった時に使う?
この「死後離婚」どういった時に使うのか疑問であった。本書では次の様な事例が紹介されていた。
・夫と義父が亡くなっている。義母は存命。
・義母が要介護となった
・残された妻(自分)に、義母の介護義務はない(法的にも無い)
・義弟に、義母の介護を頼んだら、「義姉さんがやれば」といわれた。
このようなケースで、心苦しいが「死後離婚」を使い、妻と義母は関係を解消した。義弟は、しぶしぶ母親の介護を行った。
確かに、こういったケースでは有効かもしれない。覚えておいて損はない。また、配偶者と死別した後に再婚した場合、最初の配偶者の親との関係は残っているので、これを解消したい場合にも使える。ただし、この制度は一度受理されると後から取り消しが出来ないので注意が必要である。
まとめ
冒頭にも書いたが、本書に記載されている個々の離婚ケースは、ほぼ「男が悪い」に終始する。その中から、制度として役に立ちそうなものを紹介した。実際に、離婚を考えている人の参考になれば幸いである。とにかく、相手が同意しない限り簡単には離婚出来ないということである。まぁ、当たり前だが。
相手が離婚に同意しない場合は、4条件(実質的には①か④の2条件)のいずれかを成立させる必要があるので、周到な準備が必要となる。健闘を祈る!