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「聴く技術」黙って聴けが正解だが、これが難しい

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この本を読もうと思った理由

 私がこの本を読もうと思った理由は、聴く手法(技術)を学んでみたかったからである。書く技術については、既に2冊本を読んでいる。今度は、人との会話で聴くことを学んでみたかった。特に、年齢的に会社の若手から何かと相談される時もある。そういった時に、どうやって聴くのが一番効果的なのかを知っておきたかったというのもある。

精神科医が教える「聴く技術」(高橋 和巳、2019年12月、ちくま新書)

本書を読んだ感想

 「精神科医が教える」という副題がついている通り、少し専門的な内容である。具体的には、本業のカウンセラーを育成するような目線から書かれており、素人の会話に当てはめるのは、いささか仰々しい内容であった。だが、聴く技術でもっとも大切なこと、「黙って聴く」であれば、我々素人でもがんばれば達成できるので、この技術だけは身に着けたい。

「聴く技術」とは

 カウンセリング等で聴くことの目的は、話し手が自分の話を聞いてもらって楽になることである。このため、当然ではあるが聞き手(カウンセラー)の都合は考慮しない。患者(話し手)が楽になることが第一目標である。

 素人の会話でもここまで医学的?でなくてもいいが、やはり聞き上手といわれる人は、少なからず相手の気持ちを楽にさせるのだろう。反対に、聞き手が(よかれと思って)反論やアドバイスを述べたとしても、話し手の気持ちが楽にならなければ、それは厳密な意味では「聞き上手」とは言えない。

「黙って聞く」ことの重要性

 本書では、カウンセリングの基本中の基本、かつ”最も重要な技術”として、相手の話を「黙って聞くこと」が挙げられている。これは、聞き手(カウンセラー)が、一切口を挟まず文字通り最初から最後まで、ただひたすら話し手の語る内容を「黙って聞くこと」である。

人は、ついつい口をはさみたくなる

 しかし、プロのカウンセラーを目指す人でも、話し手の語る内容に引き込まれてしまい、ついつい口をはさんでしまうとある。しかし、これはカウンセラーとしては”失格”と書かれている。本書では、「口をはさむな」、「質問するな」、「助言するな」という、3つの戒めが書かれている。

もう少し具体的に書くと、
・「私もそう思う」などと、話を遮らない
・「今の話をまとめると、〇〇ということですね」などと、要約しない
・相手の言葉が聞き取れなくても「え、今なんと?」などと聞き返さない

 ぶっちゃけ相手の話す内容を理解できなくてもいいので、「とにかくしゃべらせ続けろ」というのが、基本的な原則のようだ。

なぜ黙って聴くのがいいのか

 ではなぜ、「黙って聴く」のがいいのか?それは、話し手が一方的に話すことで”自己解決”に至るからである。カウンセリングというと、アドバイスのプロの様に思われるかもしれないが、実際は真逆で最小限の相づちなどで、”話し手の自己解決作用を促す”ことを目的としている。この部分を理解できなければ、とにかく「何か気の利いた意見を言わなければ」となってしまう。

口をはさむと流れの方向が変わる

 聞き手が、質問やアドバイスをすると話し手はそちらに気を取られて、話の方向がゆがめられるとある。本来なら、話し手が自分の心に従ってつらつらと話すべきところを、聞き手の質問によって、違う話題に引っ張り込まれてしまうのである。こうなると、話し手の自己解決作用が弱められるとある。なので、とにかく「話し手の好きにしゃべらせておく」のが正解なのである。

話半分で聴くぐらいがちょうどいい

 プロでもこれらを守ることは、至難の業である。我々素人であれば、なおのこと達成は難しいだろう。先ほども書いたが、「人は黙って聞いてもらえるだけで楽になれる」。聞き手として、頭の中では「つまんねぇ~な~、この話早く終わらないかな~」ぐらいの感覚で、“話半分”程度に人の話を聞いているのが、本当の聞き上手なのだろう。気の利いたアドバイスが必要でなければ、聞き流しても問題は無い。

とにかく黙って聴け!特に男性

 夜の食卓で妻が仕事やパートでの愚痴を延々喋っている時でも、我々はついついアドバイスや口をはさみがちである。特に男性脳は「聞かれたらアドバイスしなければ」という仕組みが働きやすい。が、これは「聴く技術」としては致命的である。

 「それは〇〇さんが悪いよ」と同調する必要もないし、「今度はこういうやり方をしたらいいんじゃない」なんてアドバイスも求められていない。頭の中で「明日の仕事のこと」や「お、この焼き魚うまいな」と考えながら、黙って聴き流しているのが正解である。

相談の場合の難しさ

 とはいうものの、「黙って聞け」と言われても、カウンセリングの様な場では可能かもしれないが、日常ではなかなか難しいのも事実である。特に会社の同僚や友人から、「ちょっと相談があるんだけど、今度話聞いてくれない」となった場合である。

 相談の場合は、黙って聞くだけは無理だと思う。「相手は、(おそらく)こちらの意見を求めている(と少なくとも聞き手は感じる)。」必ず自分の悩み事を説明した後に、「〇〇なら、どう思う?」と意見を聞かれる。ここで無言を貫いて、相手の更なる一人語りを促すのは、おそらく無理である。

回答も難しい

 また、回答にも窮する。
①自分の意見を無視して相手に同調するのがいいのか
②相手の意見とは異なっても自分の意見を述べるのがいいのか

 この辺りも難しい。よく聞くのは、相談する時点で相手の答えは出ている、あとは背中を押して欲しいだけ、というものである。こういう場合は、自分自身の意見を無視して、相手に賛同し背中を押すのが良いのだと思う。

まとめ

 結論としては、「とにかく黙って聞く」が正解ということは分かった。だが、日常的にはなかなか難しいのも事実である。夫婦間の会話などでは達成は可能なので「とにかく意見をいうな、口をはさむな」を念頭において、聞き上手を目指してみたい。