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「やりたいことは全部やりなさい」森永卓郎、金融面はツッコミどころ満載

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この本を読もうと思った理由

 私がこの本を読もうと思った理由は、森永卓郎氏の本を一度読んでみようと思ったからである。ザイム教などの本がランキング上位に上がっていることは知ってはいたが、実際に著書は読んだことが無かった。晩年の株価大暴落論については、さすがに賛同できないがその人柄は好感度が高かったので、この度読んでみることにした。

やりたいことは全部やりなさい(森永卓郎、2025年4月、SB新書)

この本をお薦めする人

 社会人で現状に悶々としている人が読んでみるといいかも。もっと肩の力を抜いて、会社員という安定性を活かして、やりたいことを見つけた豊かな暮らしを手に入れよう、と書かれている。ただ、金融面についてはちょっと極論すぎるかなという感じで、全面的に信用するのはどうかと思う。

本書を読んだ感想

 本書を読んだ感想は、共感できる部分とできない部分の差が激しいということである。働き方や会社というものへの考え方については大いに共感できるが、株式市場への考え方については、根拠なき極論でまったく響かなかった。

本書に共感できるところ

 まずは本書で共感できる部分について書いてみる。主に働き方と人生への対峙の方法である。

会社員こそ最強の生存戦略

 会社員と言うと、社畜や搾取されているというマイナスイメージがあるが、反面、毎月ちゃんと給料は貰えるし、生活は自営業よりは安定している。そういった会社員としての盤石な土台を活かして生きがいを見つけやりたいことをやりなさい、という考え方には賛同できる。

セカンドベストという考え方

 今の若者にありそうな「ベストな職場」という幻想。本書では「楽で、やりがいがあり、儲かる仕事」ついでに付け加えるなら、煩わしい人間関係も無い理想的な仕事。そんな桃源郷のようなベストな職場など無い!とバッサリ言い切っている。

 ありもしない“ベスト”を求めるよりも、「まぁ、この程度でいいか」と思える“セカンドベスト”(1位じゃなくて2位)な職場を見つけなさい、とのありがたいアドバイスである。この考えにも賛同できる。そんな見つかりもしない青い鳥を探す暇があったら、どこかを妥協して落ち着こうというのである。転職を繰り返してもその先には、自分の価値を下げるダウングレードな世界しか待っていないとの記載もある。

仕事に対する取り組み方

 この内容は、是非とも若手社員に伝えておきたいと思える、とても良いアドバイスであった。これは森永氏自身が若いときに上司から言われた言葉であるとして紹介されている。

①良い報告はいつ行ってもよいが、悪い報告はすぐにすること。
②自分で出来ると思う仕事は最後まで頑張ってもいいが、出来ないと思う仕事は早めに「無理です」ということ。

 これは本当に100%同意できる内容である。年齢にかかわらず「仕事が出来ない」と言われる人は、見事にこれと真逆の行動を取る。つまり、
・良いことしか言わず、悪いことはこちらが聞くまで言わない。場合によっては、聞いても言わない。結局まわりまわって、他からバレる。
・自分のミスを会社に知られたくないので、最後まで自分で処理しようとして隠す。上司に報告するのは手遅れになってから。結果、会社に多大な迷惑をかける。

 一昨年、まさにこの通りのことが社内で発生し、会社的に大きな損害となった。ボヤのうちに消防車を呼べばいいのに自分で消火しようと頑張って、結局119番するのは屋根まで燃え広がってから。全焼はまぬがれない。

本書に共感できないところ

 株式投資などの投資系の内容については、残念ながらほとんど共感出来なかった。極論過ぎて具体性もなく不必要に不安を煽っているだけ、という印象である。

資本主義の終焉

 森永氏に言わせれば、そう遠くない将来において、映画ターミネーターでいうところの「審判の日」が訪れて、バブル崩壊とともに資本主義の終焉が訪れるらしい。だから、投資はするなという結論となる。

終焉はいいが、その先の世界は?

 ここはさすがにツッコんでおかないとダメだろう。バブル崩壊は、まぁあり得るとして、資本主義の終焉はさすがに無理ないか。よしんば終焉したとして、その先にどのような世界が待っているのか?という肝心な部分にはまったく触れずのダンマリ。また、資本主義そのものが終焉するのであれば、氏の推奨する貯蓄すら意味がないのでは?と言いたい。

とにかく「バブル×バブル×バブル」

 氏に言わせれば、とにかく今の世の中は巨大なバブルの最終局面ということだ。「もうすぐバブルがはじける。再起は無い」という記述が何度となく繰り返される。そして自身で、「これまで200年の間に70回ものバブルが発生しているんですよ」と書いている。ここもツッコミどころだ。

オリンピックより高頻度なバブル

 まてまて、200年で70回のバブルということは・・・単純計算200÷70=2.9年。なんとバブルは約3年に1回の割合で発生していることになる。「オリンピックより高頻度やないかぁ~~い」バブル発生しすぎ。つか、こんなにバブルが日常茶飯事なら、なんでそんなに恐れるのか?

さすがに不安を煽りすぎ

 とにかく、「もうすぐ、(せめて2年後か5年後か程度の具体性は示して欲しかった)、バブルが崩壊して、資本主義が終焉を迎え、株価は二度と戻らない」らしい。(根拠は?)
こういう煽りが1章まるまる続いている。さすがに不安を煽る怪しい商法か、と言いたくなるほどだ。

まとめ

 賛同できるところと、「イヤイヤそれはちょっと、、、」というところの差が激しい、というのが本書を読んだ感想である。森永氏の人柄から、純粋に多くの人のことを思って書かれていることは分かるが、金融面では主観が前面に出過ぎているので、もう少し客観性を持って冷静に書いて欲しかったというのが、正直な気持ちである。