芥川龍之介全集4(1987年、ちくま文庫)
杜子春
唐の洛陽に杜子春という若者がいた。元はお金持ちだったが散財し、今はその日の暮らしにも事欠く状況であった。そんな時、ひとりの老人が杜子春の前に現れて、一夜で彼を都一の大金持ちにしてくれた。しかし、杜子春はまたもや豪遊を重ね、わずか3年で元の貧乏人に逆戻り。すると、またしても老人が現れ杜子春を元の大金持ちにしてくれた。しかし、今度も同じことの繰り返し。3度目に老人が現れた時、杜子春は「もうお金はいりません。あなたは仙人でしょう、弟子にして下さい」と頼んだ。
老人はそれを快く引き受けてくれ、杜子春を山奥の自分の住まいに連れて行った。そして、自分は出かけるが、その間「何があってもひと言も口をきいてはいけない」と言って出かけた。老人が出かけた後、妖怪などが杜子春に口を利かそうと色々な悪さをした。挙句、杜子春は、地獄に落とされ地獄の責め苦を味合わされることに。それでも杜子春は、ひとことも口をきかなかった。
しまいには、地獄で亡き父と母が杜子春の目の前で、鞭で散々に痛めつけられるのを見せられることに。さすがにこれに耐えかねた杜子春は、「お母さん」と言ってしまう。気が付くと、洛陽に立っている自分がいた。「仙人になるのは無理だな」と老人に言われるが、杜子春は、「父母を犠牲にしてまで、仙人になりたいとは思いません。」と答える。そこには、すがすがしい顔があった。
藪の中
(この物語は、山の中で一人の男の死体が見つかった事件について、各関係者の発言で構成されている)
〇木こりの証言
私が死体を見つけました。太刀は無く、切れた縄と女物の櫛がありました。
〇旅法師の証言
その死体の人物には、昨日会いました。女連れで太刀も弓矢も持っていました。
〇捜査関係者の証言
私が捕まえた男は、多襄丸という盗人です。太刀も弓矢も持っていました。ということは、その男を殺したのは多襄丸ではないでしょうか。こいつは無類の女好きなので、連れの女もこいつが殺したのではないでしょうか。
〇老婆の証言
その男は、私の娘の夫です。歳は26歳です。娘は19歳です。昨日二人で出かけました。婿は残念ですが、娘は大丈夫なのでしょうか。
〇多襄丸の証言
あの男を殺したのは俺です。しかし、女は殺していません。本当は男を殺すつもりはなく、杉の木に縄で縛り付けていただけ。だが女が言うには、夫か俺かのどちらか一人が死んでくれ、自分は残った方についていくと言うのです。俺は男を自由にし太刀も与え真剣勝負をしました。結果、私が勝ったのです。しかし、その間に女はどこかに逃げ去っていました。
〇ある女の証言
その男は私を手籠めにした後、どこかに消えました。そこには私と縛られた夫が残されていました。夫は蔑むような目で私を見ました。私は夫に言いました「一緒に死にましょう」と、夫もそれに同意しました。私は夫を殺しました。しかし、私自身は死に切れませんでした。
〇イタコの口を借りる死霊の証言
その盗人は妻を手籠めにすると、自分の妻となるよう私の妻を説得し始めた。その時、妻の口から出たのは「ならば、あの人を殺してください」という言葉だった。盗人は、私に聞いてきた「お前はあの女をどうしたい?」こう言っている間に、妻はどこかに逃げ去った。盗人は私の縄を切ってどこかに行ってしまった。私は、自分で自分を刺して自害した。
感想
男が死んだのは事実、しかしその死に方が文字通り「藪の中」というやつか。三者三様の証言をしているので、どれが本当か分からない。今でいう、ミステリーの走りのようなものか。「芥川龍之介 藪の中 犯人」で検索すると、多くのサイトで考察がされているが、作品自体が意図的かどうかは分からないが、中途半端に作られているので、誰も犯人を断定することは出来ない。
トロッコ
良平が8歳の時に近所で鉄道工事が始まった。良平の家はトロッコの終着点の近くにあり、工事に使われるトロッコを見るのが好きであった。ある時、誰もいない工事現場で弟たちとトロッコを押して乗ってみたらとても楽しかった。
後日、工事現場で良平は「トロッコを押させて欲しい」というと気のイイ2人の若者は「手伝ってくれ」と言った。良平は嬉しくてトロッコを押した。途中下り坂もありその時はトロッコに乗せてもらえた。気が付くとずいぶん家から遠くまで来てしまっていた、日も傾き始めている。そろそろ、家に帰らねば。。。良平は焦りだす。
そんな時、若者二人から、「今日は俺たちは向こう(トロッコの発着点側)に泊まりなので、お前も家に帰れ」と言われてしまう。てっきり自分と同じ終着側に帰ると思っていた良平は、どうしようもできず走りに走って家に向かう。辺りはもう暗くなっている。ようやくのことで家に帰りついた良平は、大声で泣くことしかできなかった。
感想
男の子であれば工事現場に憧れる気持ちはよくわかる。しかし、一緒に帰れると思っていた相手から、急にお前だけ帰れと言われた時の心細さが、ありありと表現されている作品だ。
その他、気になった作品
報恩記
ある大泥棒の話
ある時、泥棒が教会に「ぽうろ」という日本人の冥福を祈りたいとやって来る。その泥棒が言うには、自分が二年ほど前、商人である北条屋弥三右衛門の家に盗みに入ると、家の主人と奥方の会話が聞こえてきた、どうやら商売に失敗して近日中に大金が必要とのこと、また、勘当した息子のことが気がかりであることが分かった。なんの縁かこの泥棒は若いときに、北条屋弥三右衛門に命を助けられた恩があったので大金の調達を請け負うことにした。
北条屋弥三右衛門の話
教会に来た北条屋弥三右衛門が懺悔する。私は泥棒にお金を工面してもらい窮地を脱した。後日、その大泥棒が捕まって獄門にされその首が晒されているということで、私はそれを見に行った。そこに晒されていた首は、大泥棒の首ではなく大昔に勘当した自分の息子、またの名を「ぽうろ」という、の首であった!息子の首が自分に語り掛けるには、「自分はこれまで親不孝ばかりしてきたので最後に何かの役に立ちたく、父が恩のある泥棒の代わりに自分が捕まることで、泥棒を助けようと思った」ということである。
息子「ぽうろ」の話
私はある時、その大泥棒を見た。そして、その泥棒が自分の父母のために大金を工面していることを知った。どうにかしてその恩を返したい。そして思いついたのが、大泥棒として自分が名乗り出て首を討たれることで、今後泥棒本人を自由の身にしようと思った。お父さんお母さん、このような息子を許してください。私はすでに胸を病んでいます。ほおっておいてもあと数年の命です。最後に、何かの役に立ちたいのです。
⇒「芥川龍之介全集(3)」きりしとほろ上人伝、蜜柑、或敵打の話 他