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ドリームチームはなぜ破綻したのか? 学ぶべき4つの教訓 ロングタームキャピタルマネジメント

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こんにちは、井上向介です。アラフィフ、サラリーマン、4人家族。子供2人は社会人となり独立。現在、妻と二人で生活しています。

この記事は、「ロングタームキャピタルマネジメント(LTCM)の失敗」から、投資についての教訓を考える記事です。

この記事で分かること
  • ロングタームキャピタルマネジメントの概要
  • ロングタームの破綻の原因
  • ロングタームの失敗から学ぶべき4つのこと

結論:ロングタームの失敗から学ぶべき4つの教訓は以下のとおりです。

【学ぶべき4つこと】

  1. レバレッジのかけすぎは危険
  2. 万能な手法は存在しない
  3. 人間心理を考慮する
  4. 流動性のなさに注意する

名前だけは知っているロングターム

ロングタームキャピタルマネジメント(LTCM)、株式投資を勉強している人なら、この名前は知っていると思います。書籍「デイトレード」をはじめ、アメリカ著者の書籍には頻繁にその名前が取り上げられます。

ロングタームのイメージ

ロングタームは、大抵過去の失敗例としての「反面教師」として書籍に登場します。実際、破綻したのだから失敗例として扱われるのは仕方がないことですが、私の持つロングタームのイメージは、次のようなものです。

【ロングタームのイメージ】

  • アメリカの巨大ヘッジファンド
  • 学者などから構成されており、ドリームチームと言われた
  • にもかかわらず、「何か知らんけど」破綻した

「何か知らんけど」の部分を探る

多くの書籍には、ロングタームが破綻したという事実(結果)は書いてありますが、ロングタームの概要についてや「どうして破綻したのか」の原因や失敗点などについては、書かれていません。

私としては、なぜドリームチームと言われた巨大ファンドが破綻したのかを知りたく、「最強ヘッジファンド LTCMの興亡」という書籍を購入しました。この記事はその書籍から学ぶべき教訓をまとめています。

結論:ロングタームが失敗した4つの原因

ロングタームの成り立ちや失敗の過程などを語る前に、結論を先に述べます。ロングタームが破綻するきっかけは、1997年に発生したアジア通貨危機です。そして、破綻の根本的な原因は次の4つだと私は感じました。

【ロングタームが失敗した4つの原因】

  1. レバレッジのかけすぎ(最低でも25倍)
  2. 自分たちの手法にこだわりすぎた
  3. 人間心理(特に恐怖)を計算に入れていなかった
  4. 流動性のない商品に手を出した

これらはすべて「教訓」として、我々の日々のトレードに活かすべき内容です。

ロングタームの概要

ロングタームキャピタルマネジメントの概要について簡単にまとめます。

ロングタームは、かつてアメリカに存在したヘッジファンドです。ヘッジファンドとは、銀行や個人投資家から出資を募りそのお金を運用する機関です。

個人の場合、ロングタームへの参加資格は最低1,000万ドルからでした。(約10億円)そこらの投資信託のように、「誰でも気軽に参加できる」というレベルのものではありません。

ロングタームの活動期間

ロングタームが活動したのは、1994年~1998年までのわずか4年間です。その概要をまとめると、次の通りです。

【ロングタームの道のり】

  • 1994年運用開始
  • 1997年まで快進撃を続ける
  • 1997年、アジア通貨危機勃発。この辺りから雲行きが怪しくなる
  • 1998年、ロシア財政危機勃発でトドメの一撃、破綻(銀行に買収される)

ドリームチームと言われた割には、たった4年しか持たなかったということです。

運用者

ドリームチームといわれるロングタームですが、ロングターム側の関係者として書籍「LTCMの興亡」に登場する人物は多くありません。

  • ファンドの発案者:ジョン・メリウェザー
  • 経済学者2名:マイロン・ショールズ、ロバート・マートン(共にノーベル賞受賞)
  • パートナー2名

それぞれの役割

ジョン・メリウェザーは、いわば社長のようなものです。しかし、この人物は寡黙で多くを語らず、またメンバーに対して強く出ることもありませんでした。その結果、パートナーの暴走を止められず、これが破綻の原因の1つにもなります。

2名の経済学者は、「ブラック–ショールズ理論」(オプション取引の理論価格計算のモデル。)を考案し、ロングタームはこの考えに沿って運用を行っていました。しかし、計算で人間の心理や行動を予測できるほど世の中は単純ではありませんでした。

パートナー

作中、頻繁に名前が挙がるのがヒリブランドとハガニという2名のパートナーです。パートナーとは、今でいうファンドマネージャーの事だと思います。特にヒリブランドは、自意識が強く周囲の意見を取り入れず、後々無茶な取引に暴走していきます。

ロングタームの取引手法

ロングタームの運用手法は、債券市場でのアービトラージ(裁定取引)といわれるものでした。一方を買い、一方を売り、両立てでヘッジをかけながらわずかな価格差のゆがみを稼ぐというものです。

両建てのため、基本的に片持ち(売りか買いかの一辺倒な取引)よりも安全とみられています。

5セント玉(5円)を掃除機で集める

反面、利益は薄く「我々(LTCM)のやっていることは、5セント玉を掃除機で吸い上げるようなものだ」と表現されています。

5セント=1ドルの1/20なので、1ドル=100円なら5セントは5円です。たった5円から数億ドル(数100億円)、数十億ドル(数1000億円)の利益を生み出すには、どれほどの運用資金とレバレッジが必要か、、、考えただけで恐ろしいです。

ロングタームは、常に25倍ほどのレバレッジをかけて資金を運用していました。25倍と言っても、数十億ドルの25倍です。

当時の為替レート

ロングタームが活動していた当時(1994年~1998年)の為替レートは、以下の通りです。

【当時の為替レート】

  • 1994~1996年:1ドル:100円
  • 1997年:1ドル:120円
  • 1998年:1ドル:130円

最後の2年で急速に円安が進行していますが、これはロングターム破綻のきっかけとなるアジア通貨危機が1997年に起こったからだと考えられます。

最初の2年は快進撃

1994年に運用開始したロングタームは立ち上げ時に12.5億(1250億円)の資金を集め、そこから2年間は快進撃を続けます。1年目は年率26%のリターン、2年目は59%のリターンという驚異の数字を出します。

運用側は、超強気で顧客やお金を借りている銀行に対しても、自分たちがどのような取引をしているのか、どのような商品を運用しているか、一切「手の内」を見せませんでした。

普通ならあり得ないことですが、結果を出していたから不問とされていました。

非公開は結果的に正しかった

自分たちの手の内を見せないという、考え方は結果的には正しかったことになります。後年、ロングタームが危機に陥った時、銀行から取引の詳細を知らせるよう言われたロングタームは、渋々自分たちがどのような商品を扱っているかを説明します。

しかし、それを知った銀行団はロングタームの保有する商品を狙い撃ちし、結果的にロングタームの破綻を早めることになります。

だんだんと稼げなくなる

数年は快進撃を続けたロングタームですが、だんだんと稼ぐことが難しくなります。その原因は、自分たちの手法が真似されたためです。

ロングタームは、厳格な秘密主義で自分たちの取引手法を外部には公開していませんでしたが、やはりどこからか漏れるものです。それをゴールドマンサックスなどの大手投資銀行に真似されて、利益を出すのが難しくなってきました。

自分たちの得意分野を離れる

その結果、ロングタームは得意分野である債権市場以外の株式取引やその他デリバティブ商品にも手を出し始めるようになります。債権市場は、2人の経済学者の考案した理論が通じやすい市場でしたが、人間感情がまともに反映される株式市場には不向きでした。

また、この頃には両建て取引を行わず、不利な片持ち取引を行うようになっていました。

破綻への道のり

ロングタームが危機に陥るきっかけは、1997年に起こったアジア通貨危機です。それに続く翌1998年に起こったロシア財政危機で完全に身動きが取れなくなります。そして、1998年9月に銀行に買収され終焉を迎えることになります。

何を読み違えたか

ロングタームは商品のひずみ、価格差(スプレッド)は、「必ず」収束するという前提のもと取引を行っていました。

そのため、ロシア財政危機が起こっても「元に戻る」と予測しそちらに賭けました。しかし、実際には予想通りにいかず、相場は逆に動き高レバレッジをかけていたロングタームの損失は雪だるま式に膨らんで行きました。

流動性のなさ

また、この頃のロングタームはポジションが大きくなりすぎて身動きが取れない状態となっています。ロングタームのポジションは世界各国で1000億ドル(10兆円)以上となっていました。

あまりにもポジションが大きい上に、市場心理は冷え切っており買い手がおらず流動性が極端に低下していました。このため、売って損失を確定させ現金を確保することも出来ない状態に陥っています。

同業からの狙い撃ち

この頃にはロングタームと銀行の立場は完全に逆転しており、ロングタームが膨大な損失を出していることは銀行団にも知れ渡っていました。LTCMはどこでどのような損失が発生しているのかポジションの開示を求められます。

やむなく、ポジションを開示したロングタームですが、そのポジションを一部の銀行団から狙い撃ちされます。持っている銘柄が分かれば、その銘柄を売りまくることでロングタームの損失は加速度的に膨らんでいきました。(逆に銀行側は儲かる)

こうして、高レバレッジのロングタームの自己資本は急速に減少していき、1988年は年当初から90%以上の自己資本を失うことになります。

銀行による買収

最終的にロングタームは、銀行団に買収される形でその幕を下ろします。パートナーといわれる人たちの個人的な総資産は一時19億ドル(1900億円)にも達しましたが、そのすべてを失うことになりました。

成立はしませんでしたが、ウォーレンバフェットもロングターム買収に名乗りをあげていました。

大きすぎてつぶせなかった

銀行も好んでロングタームを買収したわけではありません。ロングタームを潰すと、その余波があまりにも大きすぎるので苦渋の決断として買収となりました。

また、多くの関係者にも債権放棄をお願いしたり(野村証券の名前も出ていました)と、相当に苦労した結果でした。周囲もかなりの出血を伴っての買収となりました。

ロングタームの失敗から学ぶ4つのこと

我々がロングタームの失敗から学ぶべきことは、次の4つです。

【学ぶべき4つこと】

  1. レバレッジのかけすぎは危険
  2. 万能な手法は存在しない
  3. 人間心理を考慮する
  4. 流動性のなさに注意する

①レバレッジのかけすぎは危険

ロングタームは、最低でも25倍のレバレッジをかけて運用を行っていました。このため驚異的な利益を生み出すことが出来たのですが、同時に驚異的な速さで破綻しました。

株式でも信用取引で3倍までのレバレッジをかけることができますが、相当な熟練者になるまでは、「現物取引」で十分ということです。

通常の3倍のスピードを出せば、破綻も3倍のスピードで訪れます

②万能な手法は存在しない

ロングタームのメンバーは自分たちの手法にこだわりすぎました。ノーベル賞を受賞するような経済学者が考えた理論に欠陥があるとは、まったく疑っていなかったのです。

そのため、相場環境の変化取引商品の違いを考慮せずに同じ手法を使い続けました。また、「相場は(自分たちの理論に従い)こうなるはずだ!」という、自信(傲慢)もあったようです。

ロングタームは実質2人のパートナーが取引の大部分を牛耳っており、この2人が考え方を改めなかったのも致命的です。さらに、トップであるジョン・メリウェザーがこの二人を抑え込むことができず、かたくなに同じ手法で損失を増やしていきました。

聖杯は存在しない

しかし、「どのような相場、どのような商品にも通用する万能な手法(聖杯)」など、存在しません。

自分たちの手法にこだわるのではなく、定期的に客観的に「この手法は今の相場でも通用するだろうか?」と見直しを行うことが重要だと考えます。別の言い方をすれば、「(こちらが)相場に合わせる」必要がある。ということです。

⇒株式投資における【聖杯伝説】 勝ち続けられる手法は存在するのか

③人間心理を考慮する

ロングターム理論の最大の失敗は、「人の感情(楽観と悲観、強欲と恐怖)を計算に入れていなかったこと」です。また、これらはいくら調査・検討しても計算で予測できるものではありません。

ロングタームはいわゆる「正規分布」に基づいた戦略をとっていました。これによると、ロングタームが破綻する確率は、数百年に一度となります。しかし実際にはほんの数年で“予想外”の事態が発生し、いとも簡単に破綻することになります。

べき分布、ファットテール、ブラックスワンといわれるものです。

【我々が学ぶべきこと】

  • 人の感情は時として一方向に暴走する
  • そのようなハプニングは“思っている以上に”頻繁に起こる

④流動性のなさに注意する

ロングタームの取引が逆回転を始め、損失が膨らんだ時にロングタームは自己資本を守るため、手持ちのポジションを整理し現金を手に入れる必要がありました。

しかし、あまりにもポジションが大きすぎたことと、皆が市場から逃げ出して「買い手」がいなくなり売るに売れない状況に陥ってしまいました。

通常、個人投資家が株式取引において流動性の危機に陥ることはありませんが、不動産投資などでは流動性の低さから、すぐに売れないという危険性は大いにあります。