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「朽ちるマンション 老いる住民」オートロックが開けられない高齢者

この本を読もうと思った理由

 私がこの本を読もうと思った理由は、前回「生きのびるマンション」を読んだが、再度別の視点、別の書籍から同じ内容を学びたいと思ったからだ。現在、築40年のマンションに住んでいる私としては、これらの書籍に書かれていることは他人事ではない。自分の住まいは自分で管理する、このような当たり前のことがマンションでは他人事になってしまう。

朽ちるマンション 老いる住民(2023年1月、朝日新書)

この本をお薦めする人

 この本は、私の様に築年数の古いマンションに住んでいる人には読んでもらいたい本である。本当に他人事ではない。自分が死ぬまでの今のマンションに住み続けることができるのか、無理であるならどうすればいいのか?、考えるきっかけとなるだろう。目をそらしていてもマンションの老化は確実に進行する。

管理拒否について

 マンションは戸建て住宅と違って、基本的に管理会社に管理を委託することになる。その結果、日頃の手入れは不要となりそれがマンション生活でのメリットのひとつにもなる。反面、住民が自分の住まいであることを忘れてしまうという弊害もある。だが現在、管理会社から管理を拒否されるという事例も発生している。

管理拒否の実態

 管理会社がマンションの管理委託を断る原因として、本書では旨味が無い(儲からない)ことや、人手不足(管理人不足)やそれに伴う人件費の高騰が挙げられている。確かに相手も商売である。慈善事業ではない以上利益の出ない業務には手を出さないだろう。

 本当はこのようなことは避けるべきことではあるが、対策としては自主管理や部分委託などの工夫が必要となる。

管理会社からの目線

 本書では、「どうして管理拒否するのか」について、管理会社側の意見も掲載されている。それによると、管理拒否をしたくなるマンションの特徴として、
・築年数が経過している(築40年以上など)
・戸数が少ない、空室率が高い ⇒積立金等が不足しがち
・所有者不明の住戸が多い、理事のなり手がいない
と言ったことが挙げられている。

 結果的に、管理組合自体が機能不全になっているということだ。管理会社はあくまで住民(=管理組合)をサポートするのが仕事である。主体となる管理組合がガタガタで、意思決定能力も失われているのであればどうしようもない、手も引きたくなる気持ちも理解できる。

大規模修繕の闇

 マンション管理では避けては通れない大規模修繕。「生きのびるマンション」でも記載したが、残念ながら大規模修繕が狙われているという事実は本書でも記載されている。先ほど管理会社が儲からないと書いたが、その儲からないツケを取り換えず絶好のタイミングが、「大規模修繕」となる。業界では、管理会社主体での談合が慣例化しているともある。

 事例として、6200万で発注した大規模修繕工事が、他社であれば1900万で可能だったということが記載されている。金額にして約3倍の開きである。さすがに無茶苦茶だ。本書では、相場として1戸当たり80~100万円と記載されているが、今は建設費が高騰しているので実際はもっとかかるだろう。

マンション管理に無関心のツケ

 しかし、我々の多くは自分のマンションの修繕積立費がいくらあるのか、それで足りるのか、次の大規模修繕がいつなのかを知らない。実際に、将来の大規模修繕費の積み立てが不足しているマンションの割合が35%に上るらしい。

 こういう場合、後から「どうしてこうなったんだ?」、「管理組合は何をしていたんだ」と怒っても始まらない。実際に自分で関わって来なかったのも事実である。他人に丸投げしておいて、怒る権利はない。

 こういう人に限って、積立費の値上げにも反対していただろう。後からなら何とでもいえるのである。もはや手遅れとならないためにも、自分の住むマンションにもっと興味を持つ必要がある。また、管理組合側も積極的に発信してく必要があると思う。

高齢者が住むマンション

 高齢者が現在のマンションでどういった不具合に遭遇するのかも記載されていた。興味を引いたのが、「オートロックが開けられない」というものである。これは、①帰宅時に自分がマンションに入れない、②来客があった時に自宅から入口のオートロックを開錠できないという両方の事例が書かれていた。

オートロックが解除できない高齢者

 ②自宅からオートロックが解除できないというパターンでは、インターホンが鳴ると玄関のドアを開けてしまうらしい。帰宅時に住民の老人が、玄関で入れず取り残されていたというのを見た人もいるかもしれない。他にも、同じようなドアの並ぶマンションで自宅を識別できないなどの問題もあるようだ。

認知症の妻

 認知症の妻と生活する夫の事例が紹介されていた。妻は夜中に起きだし大声を出す、ドアをたたく、足を踏み鳴らすなどの行動をしてしまう。当然、近所から苦情も入ることになり夫は、夜通し妻をドライブに連れ出すという対策を取っていたとのこと。

 そんなことでは、夫の体がもたないだろう。結局は、やむなく妻を介護施設に入れたということであるが、それが無理ならどうなっていたのか。。。こういう点では、戸建ての方が周囲に迷惑をかけない。

すべての原因は住民の無関心

 これまでマンション管理のデメリットを書いてきたが、すべての原因は住民の管理に対する無関心というところに行きつく。自宅内の管理については、各自で行うという自覚はあるが、廊下や外壁、植栽などのいわゆる共用部分については、途端に自分の家という認識を失ってしまう。実際に私自身、同じような感覚である。何気なく使っているエレベーターやポスト、廊下はどこか他人の施設の様に感じてしまう。

 対策としては、住民の意識改革しかない。エレベーターや廊下も含めてすべて、自分の家という感覚を意識的に持っていくしかない。無知、無関心からの脱却である。いい意味で将来の自宅に対して危機感を持つ。絶望感ではない。

コミュニティ再生

 無関心からの脱却として、コミュニティの再生が解決策となりそうだ。特に若者の参加が必要となる。コミュニティの再生の最適なイベントとして、「消防訓練(防災訓練)」が挙げられていた。南海トラフ地震や首都直下地震等の発生も危惧される昨今、防災への関心事は若者でも高いので、コミュニティの再生の場としては絶好の機会だろう。

高齢者側の態度はどうなのか

 コミュニティ再生に取り組むマンションの事例が紹介されているが、参加はほぼ第一世代(当該マンションを新築で買った人達)とある。築40年として、70代~80代だろうか。こういった人からは、若者の参加が無いと嘆く声もあるようだ。

 この件に関して、私は否定的な見方をしている。というのも、私が30代の頃子供会の役員としてマンション運営にかかわったことがある。管理組合ではなかったが、それでもここでいう第一世代と接した時の印象は、「最悪」であった。

老害に辟易した経験

 いわゆる“老害”である。初期住民である自分たちこそがマンションの主であるという感覚。会社組織でもないのに、謎の年功序列。若いというだけで下に見られる態度。本当に辟易した記憶しかない。その時の私は率先して周囲の知り合いに自治会を抜けるよう推奨していた。実際に私自身も自治会を抜けた。

 災害などがあっても、ジジババなんぞ勝手にくたばれと思うほど敵対意識を持っていた。おそらく今でもこういった老害気質の住人は多いだろう。このような状況で、どのようにして若者を含めたコミュニティの再生を行うのかは、言うよりも相当難しいと感じている。

まとめ

 これまで2冊の本を読んで、マンション管理の実態を知ることができたが、解決策としては以下が重要と感じる。

・まずは自分のマンション管理(運営)に感心を持つこと
・室内だけでなく、室外の施設も自分の家と思うこと
・マンションが管理不全に陥れば、自分も共倒れという危機感を持つ
・管理組合の総会への参加(管理状況の確認)
・管理状況を知ることは、最後まで今のマンションと運命を共にするのかの判断材料になる
・コミュニティの再生をめざす(廊下であった時の挨拶等)

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