この本を読もうと思った理由
私がこの本を読もうと思った理由は、50代の会社員として「静かな退職」とはどのようなことなのかに興味があったからである。本書を読む前は、仕事に前向きではないのに定時帰宅、有給完全消化など「やることやらずに、自分の権利ばかりを主張する」ような負のイメージを持っているのだが果たしてどうだろうか。
静かな退職という働き方(海老原 嗣生、2025年2月、PHP新書)
静かな退職の定義
本書における静かな退職の定義は、「仕事はするが積極的な意義は見出していない」と書かれている。業務時間中は仕事を行うが、業務時間が終わればさっさと帰ってしまう。アルバイトや派遣社員のような働き方をイメージしてもらえればいいだろう。
本書をお薦めする人
50代を過ぎて今の仕事に情熱を持てない、やりがいを感じられない、しかし定年までは無難にやり過ごしたいという人が生存戦略として活用するのがイイだろうか。もしくは、仕事はあくまで生活の糧を得るための手段であり、プライベートをすごく充実させたい、親の介護など、家庭的事情で出世は諦めるが定年までは無難に勤めたい、という人にも役に立つかもしれない。
だが、著者自身も述べているが「静かな退職=仕事をサボることではない」ので、そういった手抜きのためのテクニックを期待しているのであれば、本書は役に立たないだろう。
本書を読んだ感想
本書を読んだ感想を手短にまとめると、前半は欧米至上主義みたいなところが癪に障る。後半は「静かな退職」を実践するための指南書となるのだが、これがなかなか難しい。私的には「そこまでして、(静かな退職を)やりたいとは思わない」という内容であった。
本書の前半(欧米の事例紹介)
本書の前半では、欧米での事例が解説される。著者によると欧米では「静かな退職」が標準であり、日本は”異常”ということに終始する。私としてはお国柄の違いだろう、と言いたい。単に著者が「静かな退職」を推奨したいがための理由付けとして、欧米が世界標準で日本は劣っているという理由付けにしているように感じる。
出世できない欧米と可能性のある日本
特に欧州においては職業枠がガチガチに決められており、就職した時点で将来性はゼロ。出世や昇給など望めない。その結果、労働者は単なるアルバイトか派遣社員感覚で働いている。当然、愛社精神なんてものは微塵もなく、就業時間が過ぎたら「ハイ、さよなら」となる。これは各国の社会事情によるもので、割り切って働く欧米の方が良いと決めつけるのはいかがなものかと思う。
向こうは将来の出世も昇給も望めないのだから、モチベーションが上がらず“目には目を”という感じで割り切って働いているだけだろう。それを「理想的」と書くのはどうなのか。「あなた高卒ですね。じゃ~給与は一生300万円で固定。ボーナスなし、昇給なし、昇進なし、では40年間よろしく」といわれて、やる気が出る方がおかしいだろう。そんな社会が”理想的”なのかと思う。
可能性のある日本が悪いらしい
逆に、日本では入社後の展望は明るい。入社時点で一生平社員“確定”という人はいない。「私も頑張れば、それなりに出世できるかも」と皆が感じられる。だからこそ、仕事へのモチベーションも上がり、資格取得を頑張ったりする。しかし、著者からすればこういった日本の体制が異常で、悪しき風習という書き方だ。
静かな退職のためのテクニック
かなりイラつきながら前半を読み終え、後半はいよいよ日本での「静かな退職」に向けた具体的な方法が記載されている。安心したのが「静かな退職=うまく手を抜いて仕事をサボりましょう」“ではない。”ということであった。逆に、通常業務より神経を使うのでは?と思ったぐらいだ。
静かな退職でやるべきこと
本書で紹介されている静かな退職に向けてやるべきことは、
①社内ではお行儀良くして周囲からの心象点を稼げ
②率先して人の嫌がる仕事をしろ
③業績向上よりも成績下位に入るな
④チーム内では目立つな(2.3位の立場にあれ)
⑤万一のセーフティネットとして外注と仲良くしておけ
目指すは「吉良吉影」
もうね、「ジョジョの奇妙な冒険」の吉良吉影かよ、とツッコミたくなった。特に④など。実際、Wikipediaに書かれている吉良吉影像の、「仕事は真面目でそつなくこなすが、今ひとつ情熱が無い」「これといって特徴の無い、影の薄い男」というのがまさに理想像なのかもしれない。
特に周囲からの心象点稼ぎについては細心の注意を払うように、とのご指示である。これはリストラ候補に挙がらないための戦略でもある。「楽してサボろう」と考えていた人にとっては大きな期待ハズレであろう。
静かな退職が出来ない職業
残念ながら、そもそも静かな退職に向かない職業が挙げられている。主に自分の采配で業務量を調整できない職種である。具体的には、製造業、建設業、販売業、サービス業とある。逆に静かな退職が可能な職業は、ホワイトカラーに限定されると書かれている。総合職、事務職といわれる人達なのだろうか。
会社の規模も重要
なおかつ、会社の人員規模にも指定がある。大企業および極端に人が少ない企業では、自分勝手な行動がやりにくいのでNG。よって、従業員100人以上の中小企業もしくは、官公庁が理想と書かれている。誰でも出来るのかと思ったら、なかなか達成条件のためのハードルが高い。ちなみに、私の場合も条件から外れている。
まとめ
「静かな退職」をバブルの頃の「窓際族」と想像しているのであれば、それは違うということだ。必要最小限の仕事は、そつなくこなし、目立たず、リストラされることもなく、定時に帰ること、有給完全消化を目指すという感じだろうか。やることやっていたら、誰からも文句は言われないということだ。
逆に露骨にサボったりするとそれが目立ち、敵を作りまくることになる。特に若手はおっさんの高給に納得していないので、サボり具合をよく見ており上司へ苦情が入る恐れがある。こうなると上司の心象は最低ランクとなり、静かな退職どころか早期退職となるので注意が必要だ。