この本を読もうと思った理由
「ファスト教養(10分で答えが欲しい人たち)」この本を読もうと思ったきっかけはこの副題である。ネットの整備により加速度的に目まぐるしく変化する現在の情報化社会でお金、コスパ、タイパが重要視される実情を知りたいと思った。
ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち(レジ―、2022年、集英社新書)
ファスト教養とは
ファスト教養とは、この本の著者が命名した言葉である。具体的にはビジネスパーソンが「手っ取り早く答え(知識・教養)を得たい」とするものと定義されている。ファストとは、①ファストフードに代表される手っ取り早くと、②ファスト&スローで有名な著書の「ファスト思考=深く考えず直感的に動く」の2つからきているらしい。
ファスト教養の目的と対象
なぜビジネスパーソンはファスト教養を求めるのか?またどのような内容をファスト教養の対象とするのか?という疑問についてまとめる。
ファスト教養の目的
ファスト教養の目的は、仕事に役立てるためである。本書では具体的な事例として、目上の人と会話を合わせるために古典(例えばシェイクスピア等)を読むことが紹介されている。その場合、話題を合わせる程度でいいので広く浅くがモットーで深掘りする気はない、ともある。
対象の判断材料
どのようなジャンルをファスト教養の対象とするかの判断材料として、①お金を稼げるかどうか、②コスパがイイかどうか、が挙げられている。逆にいうと、お金が稼げずコスパの悪いものは不要なモノとして切って捨てられるということだ。
対極にあるもの
ファスト教養の対極として紹介されているのが「古き良き学び」である。それは純粋に「自分が知りたいから学ぶ」というものである。そこには役に立つかどうかや、効率的かどうかなどは一切考慮されていない。個々人の趣味での学びと考えればしっくりくるだろうか。
なぜファスト教養が必要とされているのか
どうして現代のビジネスパーソンはファスト教養を求めているのか?そこにあるのは「漠然とした焦り」が原因とある。スピードの速い現代社会で「置いていかれる」という恐怖、SNSを見れば「周り」は出来る人ばかり。こんなんじゃだめだ、自分は努力が足りない。もっと効率よく学ばなければ、という言いようもない焦燥感に陥る気持ちは分からないでもない。
インフルエンサーの登場
効率を突き詰めるとどうなるか?行きつく先は「最低限、何を学べばいいのか教えて欲しい」という”問い”である。シェイクスピアなら四大悲劇?夏目漱石ならどの作品?となる。こういう欲求に答えるのがいわゆるインフルエンサーである。本書では、堀江貴文、オリラジの中田敦彦、メンタリストのDaiGo等紹介されている。
ファスト教養とどう向き合うのか
足早にファスト教養について説明をしたが、どのようなモノかのイメージは持ってもらえたと思う。私自身、合理主義的な考えを持っており、無駄なことや二度手間を非常に嫌っているが、にしても「そこまで学ぶ必要はあるか?」というのが本音である。シェイクスピアや古典が仕事につながるとは到底思えない。
いくら広く浅くといっても、対象をすべてのジャンルに広げればその量は膨大であろう。中田敦彦の「YOUTUBE大学」を見ても、40分程度の尺の難しい内容の動画がアップされまくっている。さすがにこれを全部学ぶのは無理がありすぎないか?と思ってしまう。普段の仕事とは別にこんなことを自分に課していたら瞬く間に疲弊してしまいそうだ。
いったん立ち止まって落ち着こう
現代の若者は我々昭和世代に比べネットの進歩で生活は便利になったかもしれないが、反面SNSの普及で非常に生きづらい生活を強いられている気もする。瞬時に日本中(いや世界中)の有能な人達の情報が入って来るのである。そんなものを毎日見さされると嫌でも焦ってしまう。
焦りを断ち切る方法
本書ではファスト教養を解毒する(呪縛から解放される)方法として、トレンドを追わない、SNSを辞めるなどの方法が紹介されている。もちろん、上を目指す人はこれからも学んでいけばいいのだろうが「走り続けること」に疲れた人は、いったん立ち止まって「ぼ~っ」としてみてはどうだろうか。心配しなくても何も変わらないと思う。
世の中は平和で鈍感にできている
私が株取引に躍起になっていた時期に日経平均が暴落した時があった。SNSでは連日この世の終わりの様に騒ぎ立てられ、追証、損切りの阿鼻叫喚であった。しかし、一歩外に出れば晴れ渡った街中は平和そのものであった。誰も暴落のことなど知りもしないし、日常の生活には何の影響もなかった。現に今も世界は続いているし、この世の終わりも来ていない。
騒いでいるのは局所的で「みんな」ではない。SNS中の「誰か」が頑張ったところであなたの生活には何の影響もない。影響を与えることも出来ない。大きな流れは何も変わっていないので安心しよう。