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【読書】芥川龍之介全集(1)羅生門、芋粥、鼻他

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なぜに全集なのか、なぜに芥川なのか

文学好きでもない私が何を血迷ったのか「芥川龍之介全集(ちくま文庫)」なるものを読み始めた。全集というからには芥川龍之介の作品がすべて収録されているのだろう。(たぶん)全8冊もある。

あなたは芥川龍之介の代表作をいくつ知っているだろうか?「羅生門、蜘蛛の糸、杜子春」などは有名である。逆にいうと有名どころ以外のマイナー作品が8冊分近くもあるということだ。フツーはよほどの芥川好きでない限り全集など読まないのではないか。

〇なぜ芥川龍之介なのか
芥川龍之介の作品は短編が多く少しの時間でも読みやすい。初めは新潮文庫の芥川龍之介作品を2冊読んだのだが、いっそ全部読んでみようと思ったのが全集に手を付けたきっかけである。

〇いつの時代の人なのか
芥川賞に名を遺したこと、口元に手をあてた顔写真、最後は自殺したことは知っているが、それ以外は何も知らないので調べてみた。
【芥川龍之介】
1892年(明治25年)~1927年(昭和2年)35歳没
明治は45年まであったので主に大正時代(20歳以降)に活躍したということか。最後は「ぼんやりした不安」から服毒自殺したとされる。(Wikipediaより)

芥川龍之介全集1(1986年、ちくま文庫)

〇各作品のあらすじと感想
ここからは私が読んだ内容を忘れないための備忘録でもある。ネタバレも含むので知りたくない方は読まないようにしてもらいたい。

羅生門

京都は不景気。羅生門に仕事をクビになった男がいた。「これからどうして生きていこうか。。。」と考えている。羅生門の上には飢饉や疫病で死んだ死体が捨ててあると聞く。興味本位で上ってみると誰かいる。よく見るとババアが女の死体から髪の毛を抜いている。

男:「ババア何しとんじゃ(なぜか義憤にかられる)」
ババア:「死体の髪の毛でカツラを作るつもりなんじゃ。わしもこうせにゃ生きていけない。この女も許してくれるじゃろ」
男:これを聞いた男が何か吹っ切れる。ババアの着物を奪って「じゃ~俺も食うに困っているのでお前の着物を奪っても問題ないよなぁ~」男ダッシュで逃亡。

〇感想
芥川龍之介の作品ではおそらく「蜘蛛の糸」と並んで1位2位の知名度ではないだろうか。しかしその割には文庫本で僅か10ページほどの内容である。文学的なことはよくわからないが「目には目を」ってやつなのかな。赤信号みんなで渡れば怖くない的な?みんなも(悪いこと)やってるんだし、俺も(犯罪)やってもいいだろってことなのか。

芋粥(いもがゆ)

ある冴えない主人公の男(40代の役人)は周りの同僚からバカにされていた。その男は年に一度、正月の宴席でだけ食べることができる「芋粥」を非常に楽しみにしていた。一生に一度でいいから腹いっぱい芋粥を食べてみたいと夢見ていた。そんな男のささいな夢が周りの同僚にバレてさらにバカにされてしまう。

そんな中、豪族の一人が「それなら私がその夢かなえてしんぜよう」と、からかうつもりで男を実家に連れて行く。それも京都から敦賀まで。そこで食べきれないほど大量の芋粥を作らせて「遠慮なく好きなだけ召し上がれ」というが、主人公の男は夢にまで見た芋粥を少しだけすすって「もうお腹いっぱい、食べられない」という。

〇感想
豪族は男をバカにするつもりの面もあったがちゃんと夢をかなえてくれる。逆に男は一生の夢がいきなりかなってしまい、その夢をかなえてしまうのが怖くなって尻込みして芋粥を食べられなくなるという皮肉なお話。

京都の宇治にあるお寺の僧侶の鼻は、あごの下まで垂れるほど長くて有名であった。当然その僧侶は自分の鼻をコンプレックスに思っており、どうにかならないかと常日頃考えていた。ある時、お寺の弟子が鼻を小さくする方法を誰かから聞いてきたので、さっそく試してみると、効果抜群で鼻が人並みに小さくなって僧侶は大喜びした。

しかし、念願の鼻が小さくなったのに、さらに人目が気になるようになった。なぜなら、みんなが自分の小さくなった鼻をあからさまに笑ったりしているのである。僧侶は鼻が小さくなる前以上に悩むことになった。ある朝起きてみると鼻が元通り長くなっているのを見て僧侶は安堵するのであった。

〇感想
この「鼻」という作品は夏目漱石から絶賛され、芥川を有名にするきっかけとなったとのこと。人の不幸は蜜の味というのを上手く表現しているそうな。「芋粥」もそうだが、念願かなったのに結局尻込みするという結末が多い気がする。

その他、印象に残った話

仙人

とある貧しい大道芸人が雨宿りをしていた古びた寺院で、自分よりもくたびれた乞食のような男に出会う。しかしその人物は実は仙人で男を一夜にして大金持ちにしてくれる。男が「なぜ仙人ともあろう人が乞食のような生活をしているのですか?」と聞いた時、仙人の言う「人生は苦難があるから張り合いがある、死があるから一生懸命生きる。仙人にはそれがないのでつまらない」(私的理解)という回答が印象的。

偸盗(ちゅうとう)

珍しく90ページほどの長編。周囲の男を誰彼なしに惑わす色香をもつ盗賊頭の女、沙金。太郎、次郎の兄弟もこの女にベタ惚れ。昔は仲の良かった兄弟も今は沙金のために互いを殺すべきかと悩むような間柄になってしまう。

この盗賊集団が次の仕事で、ある家を襲う時に沙金が「兄を危険な任務に就かせて殺す計画である」と弟に打ち明ける。弟も後ろめたさを持ちつつその計画に同意する。しかし、襲撃は失敗。弟は警備の侍に殺されかけ寸前の大ピンチ。そこに颯爽と助けに来たのが兄であった。数日後、惨殺された女の死体が見つかる・・・それ以降兄弟を見たものはいない。