この本を読もうと思った理由
文章の書き方系の書籍は、読書術系書籍と同じく山ほど出版されている。そんな中、「悪文」というのは個人的には初めて接する言葉であり、悪文とは具体的にどういった文章なのか?業務で書く議事録や報告書などで、知らず知らずのうちに自分が悪文を書いていないかチェックをしたいと思ったのが、本書を読もうと思った理由である。
悪文の構造 機能的な文章とは(千早耿一郎、2024年10月、ちくま学芸文庫)
1979年発行の文庫化
悪文とは
悪文の定義は困難であり、本書では具体的に書かれていない。だが、この本で「悪文」として事例を挙げられている文章を読むと、何かしらの違和感を持つ。悪文とはそういった違和感の有無によって判断できるのだと思う。
どこからが悪文かは、主観的判断に拠るところが大きい面もある。ただ、やはり書く側としては、読み手にストレスを与えることなく読んでもらいたい。例えば、あなたは次の文章に違和感を覚えるだろうか?
「田中は野球が上手かったし、佐藤はサッカーが得意だった。したがって、田中と佐藤はスポーツの友ということになる。ところが、田中は不思議に佐藤と馬が合った。」
機能的な文章とは
本書では、悪文とは逆の「機能的な文章」については、以下のように定義されている。
①内容が理解できること
②曖昧ではないこと
③誤解を生じないこと
④読者に余計な手間をかけさせないこと
(何度も読み返して考えさせる手間)
⑤筆者により、①~④への配慮が意図的になされていること
例えば、以下のような文章が本書では紹介されている。
「私は〇〇大学で4年間、医学を学んだ。その後、3年間ヨーロッパに医学留学した。この間、一番印象に残っているのは、東京オリンピックである。」
「この間」というのは、A:大学の4年間、B:留学期間中、のいずれのことを指すか分かるだろうか。多くの人がBと感じるだろうが、本事例ではAが正解であった。こういう文章は、上記の③~⑤を満たしていないことになる。
悪文を書かないための注意点
私が本書を読んで、参考になった部分をまとめる。本当はもっといろいろとあったが、そこは実際に読んで学んでもらいたい。
長文は悪
「とにかく、長いだけで悪」という考え方には、私も賛成である。法律の文章などが最たる例だろう。私自身、議事録などでも、長文は意図的に避けるようにしている。特に難しいテクニックなど必要ない。文章を1文ずつ「。」で終わらせればいいだけである。もしくは、箇条書き。たったこれだけで、効果は劇的である。
冷却期間が必要(文章を寝かせる)
文章というものは、筆者の独りよがりになりやすい。だから、冷却期間(寝かせること)が必要だ、と書かれている。これは、外山滋比古氏の「思考の整理学」にも同じことが書かれていた。私は議事録などは、スピード重視で当日に共有するのが良いことだと考えていたが、本書を読んでからは、翌日まで置いて見直してから送ることにしている。
主格が分からない(主語抜け)
日本語は英語と異なり、主語を省略できる。「昨日の夜、ラーメン食べた」で通じる。だが、逆に省略できるからこそ、主語が何か分からない文章が発生してしまう。若手の議事録を見ていると、この主語抜けが非常に多い。
例えば、会議の出席者が複数社(人)いて「この件について、確認を行ったが問題なかった。」と書かれている。この場合、「(誰に)確認したのか?」となる。私も自分の文章でも、主語抜けには非常に注意している。
代名詞に注意
「こそあど言葉」と言われる代名詞も、文章を分からなくする。次の文章が悪文として事例に出されていた。
「酒造メーカーは全国で3,600社ある。銘柄は6,000ほどある。灘が全国の27%を占めている。このうち、中小メーカーの数が多い。」
“このうち”とは、どのうちを指すのか自信を持って答えられるだろうか。また、この文章ではもうひとつ指摘があり、灘が27%を占めるのは、①メーカー数なのか、②銘柄数なのか、という曖昧さも発生している。
【御社、弊社の表現】
「御社、弊社」という言葉も、最近の議事録では極力避けて、自社のことでも具体的な会社名を記載するようにしている。
A「①については弊社で担当しますが、②についてはB社でお願いします」
B「了解しました。ただ、②のうち③の部分については弊社では対応できないので、C社で対応願えますでしょうか」
C「了解しました。弊社で対応します。御社にはいつ頃、納品したらよいですか。」
結局、誰が何を担当するのかが瞬時に判断できない文章は、「機能的な文章」とは言えないだろう。そこまでして、「御社、弊社」という表現にこだわる必要はないと思っている。
馬から落ちて落馬して
最後に少し面白かったのが、次の例文である。
「お店は、田中の家から徒歩で20メートルのところにあった」
徒歩だろうが自転車だろうが、20メートルに変わりはないだろう、とツッコまれていた。「徒歩で20分なら分かる」とも書かれていた。こういう表現は「馬から落ちて落馬した」という過剰表現として紹介されていたが、何かと笑えた。「危険が危ない」、「必ず必要」といった類と同じだろうか。
まとめ
実に117もの事例を挙げて、悪文と修正例が紹介されている。こういうのは、多くの事例を見てどこが悪いのかを指摘してもらわなければ理解が進まないので、非常に参考になった。
私が本書から学んだことをまとめると、
・長文は使わない(短文か箇条書きを使う)
・文章は寝かせる(議事録などは最低でも翌日まで)
・主語抜けに気を付ける
・代名詞に注意(こそあど言葉。対象を明確にする)
文章を書くコツ
最後の解説で、次のようなことが書かれていた。
「文章を上手く書くコツは、名文を書くことではない。悪文を書かないことである。悪文さえ書かなければ、あなたの文章は社会で通用する。」