私がこの本を読もうと思った理由
私がこの本を読もうと思った理由は、「スターリン」を読んでソ連の誕生の経緯を知ったことで、同じ共産主義国である中国(中華人民共和国)の誕生経緯を知りたいと思ったからである。中国誕生に関する私の知識としては、「毛沢東と蒋介石が争って、毛沢東が勝って蒋介石が台湾に行った」ぐらいである。
独裁の中国現代史(楊 海英 2019年2月 文春新書)
中国の歴史
ご存じのように中国の歴史は長い。「中華3千年の歴史」などともいわれる。キングダムや三国志の世界もすべて中国である。イメージとしては、秦、漢、唐など漢字一文字の国名が多い印象がある。最後の一文字国家は、「清」となり、次が現代の中国(中華人民共和国)となる。その成立は、第二次世界大戦後の1949年であり2025年現在、単独での歴史は76年と、人間の寿命にも満たないぐらい浅い。
現在の中国について
本書の序章で現在の中国の国家システムについて説明されているが、驚きの連続であった。以下にそれをまとめてみる。
国民より役人が上
日本では市役所に行っても職員(役人)の態度は基本丁寧である。だが中国ではこれが真逆である。役人が国民を支配している。市役所の入り口には軍隊の警備員が立ち、軍隊が役人(共産党員)を守り、国民を支配しているとある。役人に盾突こうものならどうなるか分からない。
中国共産党の正体
中国は共産党一党独裁と言うのはよく聞くが、ここでいう共産党とは日本での政党とはまったく異なる。日本では、「今まで自民党派だったけど、今後は立憲民主党を応援する」と、政党とは単なる支持する対象でしかない。しかし、中国の共産党とはそういった政治的組織と言うより、国家を支配する権力組織という感覚である。いわば選ばれたエリート集団となる。
国民全員が共産党員ではない
共産党を政党だと思っている日本人からすれば、「中国の国民は生まれた時から共産党員」と思っている人が多いのではなかろうか。私はそう思っていた。だが、真実はまったく異なる。中国の人口はおよそ14億人、このうち共産党員はたったの9千万人しかいないのだ。国民の約7%(15人に1人)と1割にも満たない状況である。
例えは悪いかもしれないが、国民のたった7%のトヨタの社員が日本を支配しており、国民は共産党員=トヨタの職員(支配側)か、その他の一般国民という形になる。まさに「共産党員にあらずんば人にあらず」である。当然ながら誰もが共産党員になれるわけではない。
共産党員になるためには
ではエリート集団である共産党員になるにはどうすればいいのか。共産党員になりたいという申請を行った後に、学問や労働に励むのは当然。他にも思想や素行をチェックされる。これに合格すればようやく「予備党員」になる。そこからさらに1年頑張れば正式に共産党員になれるらしい。倍率が何倍ぐらいなのか興味はあったが本書には書かれていなかった。
密告も仕事
この共産党のために働くことの中には、共産党独裁を「維持」していくために働くことも含まれる。具体的には密告制度である。反乱分子がいないか、国民が不穏な動きをしていないか、すべてが党員により密告され、そういった動きは即座に潰されることになる。共産党では密告しないことが罪とみなされる。子供が親を密告することも当たり前、「リアル、ジーク・イェーガー」状態である。
共産党員になれば就職や居住地などで多くの恩恵が受けられるので、多くの人が良い暮らしを目指して共産党員になる。その結果、独裁体制がますます強化されていくというシステムが構築されている。
中華人民共和国の成立
1912年に中国最後の王朝である「清」が倒れ、以後中国は混とんの時代となる。この時に活躍した人物が孫文、国民党の蒋介石、共産党の毛沢東の3名である。最終的には、国民党VS共産党に勝利した毛沢東が1949年に中華人民共和国を建国し、台湾に逃れた蒋介石(国民党)は、中華民国を名乗る。
当然ながら現在の中国は中華民国(台湾)を正式な国家として認めておらず、北朝鮮の様に民族統一を国家の目標のひとつとして掲げている。また、上記3人はいずれも共産党による一党独裁を目指しており、誰が舵取りをしていても中国の共産化は回避できなかった。
歴史的な年表をまとまると以下の様になる。

まずは大粛清
中国を建国した毛沢東が最初にやったことが「大粛清」である。一党独裁を強固なものにするために反乱分子を徹底的に取り除いていく。約300万人の人命が失われたとある。やっていることは、ソ連のスターリンと同じである。日本でもリベラル派が少なからずいるが、こんな国のどこが幸せなのか。
地主を殺して土地改革
次に行ったのが、地主の粛清と土地の配分となる。中国でも過去には日本と同じように土地を所有している地主がいた。毛沢東は「これら地主が農民から搾取を行っている」と宣伝し、次々と地主を粛清していった。その数200万人。地主から奪った土地を1億6千万人の農民へ再配分したとある。当然農民は狂喜して共産党支持者になるという仕組みだ。
毛沢東の時代から現代になり、「中国人は自国では土地の所有が認められていない。だから土地を所有することに強いあこがれを持ち日本で土地を買いまくっている」このようなニュースを聞いたことは無いだろうか。毛沢東が大盤振る舞いで配分した土地はどうなったのか?後述する。
農民を地元に縛り付ける
一党独裁をさらに強固にするために行われたのが、戸籍制度による農民の地方への縛り付けであった。中国では、歴代の王朝が転覆する流れは、次の様にパターン化していた。
①天災や戦乱により飢饉が発生。土地を捨てて農民が流民となる。
②流民は各地で略奪などを行い国内の治安が悪化する。
③歴代王朝はこの治安悪化に労力をかけ国力が弱体化する。
④新たなリーダーが現れ、新たな国家を成立させる。
まさに三国志もこのパターンである。このようなサイクルを知っていた毛沢東は、そもそもの原因である農民の流民化を防ぐために、農民を地元に縛り付けることにした。現在の中国でも、都市戸籍と農村戸籍に分かれており農村戸籍はかなり差別的な待遇を受けている。やり方の強弱は別として、この辺りは歴史の失敗の教訓から学んでいるといえる。
大躍進政策と文化大革命
スターリンも工業化の失敗や大粛清、独ソ戦の大敗北など色々な「やらかし」をしている。では、毛沢東の「やらかし」を挙げるなら何だろうか?なんといっても大躍進政策と文化大革命(文革)の2つだろう。これは、中国共産党が公式で認めるほどの大チョンボであった。
死者数は最低でも5500万人
結果を先に述べると、大躍進では中国公式で4500万人、他説では7000万人の死者を出した一大人災である(飢饉の発生)。文化大革命では1000万人の命が奪われた。数ではおそらくスターリンの犠牲者を上回っているのではないか。
参考までに、ナチスドイツが行ったユダヤ人に対するホロコースト(大虐殺)の犠牲者は600万人である。また、日本が行ったとされる南京事件(南京大虐殺)の犠牲者は、最大でも40万人とされる。自国民を殺したか他国民を殺したか、故意か過失かの差なのかもしれないが、後者ばかりが槍玉に上げられることが多い。だが、死者の数だけ見るとスターリンや毛沢東の方が桁が一つ多い。
大躍進政策
大躍進政策とは、1958年~1961年の約2年半実施された政策で、スターリンが行った近代工業化と同じようなものである。国の生産力を上げて国力増強を目的としている。主に農業と鉄の生産増強に力を入れている。
よくよく考えれば僅か2年半の政策で、少なくとも4500万人の犠牲者を出すとかどうやったら可能なのか?と言いたくなる内容である。これが故意の殺害ではなく、いわば過失なのだから、どれほど方向違いの事をやっていたのか。その原因のひとつが有名な「四害駆除運動」におけるスズメの駆除によって起こったイナゴの大発生となる。詳しくはこちらの記事で。
土地は国家の所有物
この大躍進時代において、建国当時国民に分け与えられた土地は次々と国に奪われていくことになる。この頃には、共産党の独裁体制も強固なものとなっており、農民を地方に縛り付ける制度も機能している。ここで農民から土地を取り上げたところで、彼らに抵抗する力など無いというわけである。ジャイアン流「お前のものは俺のもの」的発想である。
毛沢東の失脚と文革への動機
大躍進の失敗によりさすがの毛沢東も失脚することになる。しかし、一度権力の座に上り詰めた人物が早々それを手放すことは難しい。結局は、毛沢東の復権への渇望が次の文化大革命という惨事を招くことになる。
文化大革命
私は文化大革命とは、その名前からして「過去の古い文化(思想)を破壊(否定)し、新たな近代文化を作るための改革運動」だと思っていた。実際に多くの知識人も殺されたと聞く。そのような側面は”名目上”のものであり、実際は大躍進の失敗で失脚した毛沢東が権力に返り咲くための「権力闘争」である。年代的には1966年~1976年まで10年間続き、毛沢東の死去とともに終焉する。
常にだれかを利用する
権力奪還のためには、大きな力(支持)が必要となる。建国当時に毛沢東が利用したのが、土地を分け与えた農民の支持である。では今回は誰を利用したのか?答えは学生である。これが悪名高き「紅衛兵」となり、結果的には紅衛兵同士の派閥や闘争が始まり、毛沢東でも制御できない動乱を生んでいく。
用済みでポイ捨て
建国時の農民と同じく学生も毛沢東が権力を奪還すれば用済みとなりポイ捨てされる。実際に文化大革命に参加した学生も「上山下郷運動」という制度の名のもと強制的に地方移住させられその力を奪われていく。今日の味方は明日の敵になりうるのだ。
この結果、中国では1972年まで大学が閉鎖され、多くの人々がまともな教育を受けられなかった。地方に追いやられた学生は中学レベルの問題も解けないほど非常に粗末な教養しかなく、日本の氷河期世代の様に中国で問題化しているとのこと。
まとめ
とにかく、織田裕二バリに「日本に生まれたよかったぁぁぁ~」のひと言である。現在、共産主義国家は地球上に五か国しかない。(中国、北朝鮮、ベトナム、ラオス、キューバ)そのような中、中国は世界2位の経済大国にのし上がっている。これは、市場経済主義を取り入れたからだと言われている。
毛沢東死後は西側諸国にも中国民主化への期待もあったようだが、現在において独裁体制が転覆することは無いだろう。近年も尖閣諸島や台湾にちょっかいを出して東アジアでの覇権を目指しているが、日本としても引くことなく対応していくべきだと考える。